About
講座について
ごあいさつ
アフリカの森の奥で、世界から「顧みられることなく」ひっそり続いている感染症。それが、ある日突然、世界中の人々を脅かす「新興感染症」へと姿を変える。2022年以降のエムポックスは、まさにそんな出来事でした。新型コロナウイルス感染症もまた、もともとはヒトに病気を起こすことなく自然界に潜んでいた、「これまで知られていなかった」病原体が、瞬く間に世界へと拡散したものでした。感染症に、国境はありません。地球上のどこか一点で起きた小さな変化が、やがて大陸を越えて広がっていく。私たちの講座は、病原体や疾患がもつ二つの顔——だれにも知られず顧みられない側面と、世界中を揺るがしながら拡散していく側面——の両方に惹かれ、その最前線で研究を続けています。
私たちが挑むのは、地球規模の健康課題です。世界三大感染症の一つであるマラリア、シャーガス病やアフリカトリパノソーマ症といった「顧みられない熱帯病(NTDs)」と、そしてエムポックスや新型コロナウイルス感染症に代表される新興感染症です。その多くは、日本ではほとんど患者を診ることのない病ですが、世界では今この瞬間も、膨大な数の命と健康を脅かし続けています。
この研究領域の面白さは、分子の世界から地球規模の社会まで、あらゆる階層にまたがってダイナミックに変化することにあります。寄生虫が宿主の体内で生き延びるための、巧妙なエネルギー代謝のしくみ。一匹の蚊が運ぶ原虫が、一つの大陸の子供たちの命を左右する構図。瞬く間に世界中を呑み込んでいく混沌。私たちは、コンゴ民主共和国やエルサルバドルといった流行地のフィールドに足を運び、「病原体とヒトと環境」を研究対象としています。そこで得た問いを、フィールドだけではなく、ラボへ持ち帰って分子レベルで解き明かし、ふたたび診断・治療・予防に代表されるアクションとして世界へ還す、そんなフィールドとラボを縦横無尽に往復するトランスレーショナルリサーチが、私たちのスタイルです。
サイエンスの醍醐味の一つは、先見性と制御可能性にあると考えています。断片的な情報を一つひとつ組み合わせ、次に何が起きるかを数手先まで読み解き、来たるべき脅威に社会が何を備えるべきかを考える。アフリカの奥地で見つけた小さな兆候から世界の未来を予見し、制御する。それは、地球を舞台にした知的探偵のような仕事でもあります。
私たちが活動するグローバルヘルスという分野は、純粋なサイエンスであると同時に、社会・経済・国際政治とも分かちがたく結びついています。顧みられない病が、国境を越えた瞬間に封じ込めるべき脅威へと変わる。私たちはそんな転換点に対してプラネタリーヘルスという視点に立ち、21世紀の感染症対策にとどまらず、その先の22世紀における人類と地球の健康まで見据えながら、基礎と臨床、ラボとフィールド、日本と世界のあいだを越境していきたいと考えています。
私たちのラボには、世界5か国以上から約30名の仲間が集い、多様な文化と知性が日々交差しています。教科書の一行では書けない、緊張感に満ちたリアルワールドを、私たちと一緒に体験してみませんか。世界へ漕ぎ出す志を持つ、すべての若い力を歓迎します。
大阪公立大学大学院医学研究科 ウイルス学・寄生虫学 教授 城戸 康年
沿革
ウイルス学
- 1992 金沢大学より小倉壽助教授を医動物学講座教授として招聘。
- 1998 老年医学研究部門 ウイルス学分野として独立。
- 2000 大学院再編に伴い 都市医学大講座・神経ウイルス感染学分野へ。
- 2008 現在のウイルス学分野となる。
- 2022 大阪公立大学への統合を機に、城戸康年が教授に就任。
寄生虫学
- 1947 初代・田中英雄教授により生物学講座として開設。
- 1955 学制改革により 大阪市立大学医学部 医動物学教室。
- 1972 第2代・高田季久教授が継承。
- 1992 ウイルス学講座の小倉壽教授による兼任。
- 2010 金子明教授が着任し、マラリア研究で大きく発展。
- 2022 城戸康年が寄生虫学講座も兼任し、一体的に統括。